ニュースの概要
日本経済新聞によると、9月の外食産業の売上高は前年の同じ月より7.3%増えました。伸びを引っ張ったのはファストフードで、秋の定番である月見をテーマにした期間限定の商品が好調だったとされています。猛暑の影響が和らぎ、人の出歩きが戻ったことも追い風になりました。値上げによる客単価の上昇に、季節商品による来店の動機づけが重なった形です。外食業界は物価高のなかでも売上を伸ばしていますが、その中身を見ると、単純な値上げだけでは説明できない動きがあります。本稿では、この数字が示す消費者心理と、企業が取るべき手立てを考えます。
引用元: 9月の外食売上高7.3%増、ファストフードで月見商戦が好調(日本経済新聞)
分析・見解
7.3%増は値上げだけでなく来店理由が支えた
外食売上の伸びは、まず価格の上昇で説明できます。ここ数年、原材料費や人件費の上昇を受けて、多くのチェーンが段階的に値上げしてきました。売上は「客数×客単価」で決まるので、客単価が上がれば、客数が横ばいでも売上は増えます。
ただし、7.3%という伸びは値上げ分だけとは考えにくい水準です。そこには「今月はこれを食べに行こう」という来店の理由が加わっています。月見商品はその代表例です。値上げ局面で客足が遠のきやすい時期に、わざわざ足を運ぶ動機をつくれた点が大きいと見ます。
月見商戦が強いのは「食べ逃したくない」心理に働くから
月見バーガーのような期間限定商品には、通常メニューにない力があります。売る期間が決まっているため、消費者は「今しか食べられない」と感じます。この心理(=見逃したくない気持ち)が、来店を後回しにさせません。
さらに、毎年同じ時期に同じ商品が出る点も効きます。季節の風物詩として定着すると、広告費をかけなくても話題が自然に生まれます。たとえばクリスマスのチキンやバレンタインのチョコと同じで、商品そのものがカレンダー上の行事になっているのです。新商品を毎回ゼロから育てるより、定番の季節商品を磨くほうが、コストあたりの効果は高くなります。
客単価を押し上げたのは、セット化と追加注文の設計
月見商品は、単品よりもセットで頼まれやすい特徴があります。期間限定のバーガーに、ポテトと飲み物、さらに季節のデザートを組み合わせる流れです。こうした設計が客単価を押し上げます。
ここで見逃せないのが、スマートフォンの注文アプリです。アプリ上では、限定商品が最初に大きく表示され、クーポンで関連商品を勧められます。店頭より追加注文の誘導がしやすく、レジの前で迷う時間も省けます。結果として、客数が増えるだけでなく、一人あたりの購入点数も増えやすくなります。
来店の波が読めるほど、需要予測と食材の手配が楽になる
独自の視点として挙げたいのは、季節商戦が「需要の見通しやすさ」をもたらす点です。毎年同じ時期に山が来ると分かっていれば、食材の仕入れ、人員配置、販売促進の準備を前もって組めます。廃棄ロスの削減にもつながり、利益率の改善に直結します。
一方で、リスクもあります。猛暑や台風といった天候の影響を強く受けるうえ、競合が同じ時期に似た商品をぶつけると、差が出にくくなります。今回の好調は、気温が下がって外出が増えた追い風が重なった面もあります。来年以降も同じ伸びが続くとは限りません。強さの源泉を「商品」「時期」「注文のしやすさ」に分けて点検することが、次の一手の土台になります。
ビジネスへの影響
季節商品は年間カレンダーで先に組んでおく
外食事業者にとって最初にすべきことは、季節商品を思いつきで出さず、年間の計画に落とし込むことです。月見、クリスマス、お花見、夏の土用など、毎年必ず来る山を洗い出します。そのうえで、仕入れ先との交渉、試作、告知の開始日を逆算して決めておきます。早めに動くほど、原価を抑えやすくなります。
小規模な飲食店でも考え方は同じです。大手のまねをして派手な商品をつくる必要はありません。地元の旬の食材を使った月替わりの一品を、毎年同じ時期に出し続けるだけでも、常連客の来店のきっかけになります。
値上げと来店理由づくりはセットで進める
価格を上げるときは、同時に「来る理由」を用意するのが鉄則です。値上げだけを先行すると、客数の落ち込みで売上が逆に減る恐れがあります。限定商品、セット割引、アプリ会員向けの特典など、値上げの痛みをやわらげる材料を同じ時期に出すと、客離れを抑えられます。
また、数字の見方も変えましょう。売上全体の伸びだけでなく、客数と客単価を分けて毎週確認します。どちらが動いたのかが分かれば、次の施策を的確に選べます。
注文アプリの導線を、今月中に一度見直す
最後に、今すぐできる実務として、注文の導線の点検を勧めます。限定商品がアプリや店頭メニューの最初に見えるか、関連商品を勧める表示が出ているかを確認してください。この小さな改善だけでも、追加注文の割合は変わります。自店で試し、結果を翌月の計画に反映する流れを習慣にすると、季節商戦の精度は年ごとに上がります。